花散らしの雨
「でも桂ってすっごいアライ絵描くよね〜っ」

あんパンがまだ口に入っている状態で美輪はお構いなしにぐさりと言う。

「はっ悪かったなめちゃくちゃで」

「でもいちおー場面は分かるよ?ここから見た桜の木でしょ」

美輪は座っている場所から的確な方向を指差した。

「場面っていうか、構図な。よく分かったなおまえ」

こんな年下と絵の話をするなんて思わなかったな。

「分かるよ!これ近い桜で、右が向こうの桜でしょ?合ってるもん。線はすっごくいがんでるけど」

反論出来ない…

「しゃーねーだろ!これでもマシになった方なんだから」

「えっこれよりやばい絵があったの?!信じらんなーい!!」

ほんっと容赦ないなこのガキ……

「あっその顔怖いわよ!レディの前なんだから素敵な顔してよ」
「レディは木に登ったり人の事呼び捨てにしたりしませんー」

そういうと美輪はぷくっと頬を膨らませた。

「美輪は桜の妖精だもん!それに桂は桂なんでしょ?」

そうカツラカツラ言われるとアクセントが違えど頭が気になってくるだろが……


「あっ!!」

突然美輪が立ち上がる。

「あたしそろそろ行かなきゃ!桂、パンありがと!」

少し慌てた感じ。

どうしたんだ?

…まぁともかく俺はこれで絵に集中出来るわけだ。

「どーいたしまして。ちゃんと家帰れよ」

俺が座ったまま見上げると、美輪はすっと表情を緩めて微笑んだ。


…それが凄く綺麗で。




こんな子供をそう思うとかどうかしてねーか俺。


その時運動場の方から声が聞こえてきた。

「俺もー既にしんどいんだけど」
「昼から走り込みだぜーやばす」

野球部、か?運動部もそろそろ昼休憩か。

と、横を見れば美輪の姿が消えている。


「美輪…?」



少し辺りを見渡してみたが、やはり居ない。


そんなに急ぎ足で帰るとは…





まぁいぃか、これでゆっくり絵が描ける。


放置されていたエンピツを左手で握りしめ、俺は桜の前に座り直した。





この日が美輪と、初めてあった日……


4月1日。



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