嘘つきヴァンパイア様
その香りに促されるように涼子は顔を上げると、肩を抱かれそのまま誰かに抱きしめられた。
「え……」
背中に手を回し、包み込まれる様に抱かれる。
(だ、誰…な、の……?)
知らない誰かに、抱かれているのに、体は嫌だと感じない。
いや、感じないというより、いきなりすぎて混乱している。そのせいで、腕を振り払うなど彼女には出来なかった。
温もりも、腕も、香りも、感覚も、呉羽とは違う。
次第に雷と同じくらい激しく胸がドクドクと響き、腫れ物に触るように問う。
「あの……だ、れ?呉羽……じゃ、ないよね?」
感覚からして、男なのは涼子にはわかった。けど、呉羽ではない。なら、誰なんだろう。
涼子の質問に、男は息をこぼして笑い、涼子の頭を撫でた。
「そうだよ。美しい薔薇が鳴いていたから、ほっとけなくてね」
(美しい薔薇って……あ)
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