嘘つきヴァンパイア様



どこかで聞いたことになる口説き文句に、慌てて顔を上げれば、雷の光でマロン色の髪の毛が見えた。


「え……ギルド、様?」


呉羽に似た顔立ちにブラウンの瞳。

唇の右下にある、小さなほくろ。


涼子を抱き締めていたのは、呉羽の兄であるギルドだ。

どうして、このような所にいるのか。彼は下界にいるはず。

「…あ」


その時、ふと初めて会った時の残像が甦り、同時に涼子は呉羽に言われた言葉を思い出した。


ギルドには近づくな。そう涼子は言われていたことを。

(この体勢はまずい…呉羽と約束したから……)


「あの、ごめんなさい。大丈夫です、から」


呉羽を裏切るわけにはいかない。ギルドから離れようとするが、おもいのほか力強い腕から逃げられない。

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