嘘つきヴァンパイア様


先程と同じように、唇が触れるだけのキスをする。


「初めてだよ。この色が好きだなんて、言われたのは

「そうなの?なら、もっと言う。その色、綺麗だから、大好き」


「やめろよ。照れるだろ、ばか」


髪から手をはなし、涼子に背を向ける呉羽。そんな呉羽に愛しい気持ちがこみ上げる。


(…わたし、こんなにも呉羽のこと、好きになってたんだ。記憶がなくても、好きになれた)


「…呉羽」


呉羽に背後から抱きつくと、呉羽は回された涼子の腕をそっと触る。


言葉に表せない時間だった。その時は、まるで、時間がとまったかと思うような時間が二人をつつむ。



お互いなにも話さない時間。それは話す言葉などいらないくらい、胸がいっぱいだったから。








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