黒水晶
ヴォルグレイトは、そのまま、ある部屋に向かった。
亡くなったレイナスの娘·リンネを幽閉している客室に…………。
リンネには、怪しまれないようお姫様扱いをしている。
「あなたは重要な立場にある存在。
ですから、決して外へ出てはいけません」
そう洗脳し続けた結果、リンネはヴォルグレイトに忠実で、はたから見たら本物の親子のようであった。
ゆえにイサも、これまでは、リンネがガーデット城の自室から一歩も出ないことに疑問を抱かなかった。
「レイナス達のように、リンネ様の命まで狙われるようなことになっては、いけないだろう?
だから、彼女をこの城に匿(かくま)っているのだ」
イサは長年、ヴォルグレイトからそう言い聞かせられていた。
ヴォルグレイトがリンネの客室を訪ねると、様子がおかしいことに気付いた。
どういうわけか鍵は外されているし、普段必ずある彼女の姿も、こつぜんと消えている。
こんなこと、今までは一度もなかった。
豪華な客室は、作り物のドールハウスに見える。
「どういうことだ…!!」
動揺し、震えるヴォルグレイトの背後に何者かの気配がしたが、振り向いた時には誰もいなかった。
“何者かが、私の邪魔をしているのだな……。
すんなりいくわけがないと予測はしていたが、小賢(こざか)しいことを!”