黒水晶

ヴォルグレイトは、そのまま、ある部屋に向かった。

亡くなったレイナスの娘·リンネを幽閉している客室に…………。


リンネには、怪しまれないようお姫様扱いをしている。

「あなたは重要な立場にある存在。

ですから、決して外へ出てはいけません」

そう洗脳し続けた結果、リンネはヴォルグレイトに忠実で、はたから見たら本物の親子のようであった。

ゆえにイサも、これまでは、リンネがガーデット城の自室から一歩も出ないことに疑問を抱かなかった。

「レイナス達のように、リンネ様の命まで狙われるようなことになっては、いけないだろう?

だから、彼女をこの城に匿(かくま)っているのだ」

イサは長年、ヴォルグレイトからそう言い聞かせられていた。



ヴォルグレイトがリンネの客室を訪ねると、様子がおかしいことに気付いた。

どういうわけか鍵は外されているし、普段必ずある彼女の姿も、こつぜんと消えている。

こんなこと、今までは一度もなかった。

豪華な客室は、作り物のドールハウスに見える。

「どういうことだ…!!」

動揺し、震えるヴォルグレイトの背後に何者かの気配がしたが、振り向いた時には誰もいなかった。

“何者かが、私の邪魔をしているのだな……。

すんなりいくわけがないと予測はしていたが、小賢(こざか)しいことを!”

< 206 / 397 >

この作品をシェア

pagetop