黒水晶
「誇り……か。
ふふ。くだらん理想論だな」
額にうっすら汗をかきつつも、ヴォルグレイトは余裕の笑みをみせる。
彼を守るように広がり続ける霧のような黒い闇。
そのせいで、エーテルの攻撃はなかなか彼に届かない。
ヴォルグレイトは、希望に満ちた瞳で剣から放たれる黒い光を眺め、口を開いた。
「イサ。……ルナを亡くして以来、私には怖いものなんてひとつもなかった。
ルーンティア共和国の者達がこの国を助け、支えてくれたことは認める。
そういう過程があったからこそ、我々はルーンティア共和国の人間と親交を深められたと言える。
だがな、そんなものは幅広い出来事から見て、たった一つの側面でしかないのだ。
他の国と仲良くしていたって、しょせんは皆、自国が可愛いものだ。
もちろん、私もそう。
歴史をたどってみても分かることだ。
同盟国の裏切りなんて、さして珍しいことではない。
……私も子供の頃は、そんな大人の社会にずいぶん胸を痛めたものだがな」
「父さん……」
ヴォルグレイトが心の中のことを話すのを、イサは初めて耳にした。