黒水晶
「お前にもいずれ、理解できる時が来るだろう……」
ヴォルグレイトは言った。
「理想と現実は違う。
生きていてほしい者が亡き者となり、
裁かれなくてはならない者が平然と生き残る。
生死に関してのみならず、何事においてもそうだ。
私はそれが許せない。
理不尽な要求。
不公平な世界。
弱き者を簡単に踏み潰す弱肉強食の社会。
悪がまかり通る世の中を、この手で変えてやりたいと思うのは、一国の主として当然のことだろう!?
イサ、お前も同じ想いを持っているはずだ、そうだろう?
だからこそ、王位継承権を受け継ぐ気持ちで、日々の公務や剣術に励んできたのではないのか!?」
「……そうですよ。
生まれた時から、私はこの国を愛していました」
“だからこそ、どんなにつらくても、恋をあきらめなくてはならないと分かっていても、次期国王になる運命から逃げなかった……!”
念願叶ってマイと想いが通じ合ったとしても、イサは、マイと添い遂げるつもりはなかった。
本音では、そうしたい。
マイ…ルミフォンドは、幼い頃から大好きだった、ただ一人の女性なのだから。
だが、自分はガーデット帝国を守っていかなければならない立場。
恋情を理由に、国民の信頼を失うような行動はできない。
それが、生まれた時から定められた運命なのだから……。
彼は、いつか訪れるマイとの別れも、甘んじて受け入れる心積もりでいる。