黒水晶
「何をする気なんだ……。やめてくれ!!」
嫌な予感で鳥肌が立ったイサは、ヴォルグレイトのいる方に駆け出す。
視界をふさぐ黒を無視して。
ヴォルグレイトの姿がとらえられないため、エーテルは魔術で防御壁を展開させつつ様子を見た。
イサがヴォルグレイトに接近する一秒前。
闇は、細かい粒子のように消え失せる。
「なに……!?」
ヴォルグレイトの予想では、ここで黒水晶が現れ、願いを叶えてくれるはずだった。
なのに、あんなにも濃かった兆候はいともあっさり消え失せてしまう。
空間一体、ヴォルグレイトが妖術を放つ前の状態に戻っていた。
エーテルの魔術で動きを封じられていた周囲の兵士達も、夢から覚めたように視線をさまよわせている。
戦闘態勢のヴォルグレイトとイサ、エーテルの三角陣形を目の当たりにし、彼らは口々に「何事ですか!?」と、取り乱した。
ヴォルグレイトとの攻防の際、禁断魔術の使用で力を消耗してしまったエーテル。
そのせいで、彼女が皆にかけていた動作停止の魔術は、とけてしまったのだ。