黒水晶
最後の最後で思い通りにいかなかったことにひどくショックを受け、ヴォルグレイトはその場にヒザをついた。
「そんな……なぜだ……!」
“黒水晶は、この場にルミフォンドがいることで現れるんじゃなかったのか!?”
エーテルはその隙をついて、ヴォルグレイトに禁断魔術を振り放った。
それは、時間にしたら1秒もかからないほど一瞬のことだった。
エーテルが翳(かざ)した両手から淡い紫色の光が射すと同時に、ヴォルグレイトの全身には糸より細い棒状の針が五本、勢い良く刺さった。
「ぐああぁーー!!」
悲痛な叫び声が、全員の鼓膜を震わす。
五本の針は、エーテルの手のひらから伸び、ヴォルグレイトの数十メートル後方まで貫かれた。
糸に吊(つる)されるような形で、ヴォルグレイトの体は宙に浮いている。
みぞおち、両腕、両足を、容赦なく貫通した鋭い針。
「父さん……!」
さきほどまでの憤(いきどお)りを忘れ、イサはエーテルの魔術で吊るされたヴォルグレイトの元に駆け寄った。
マイ、テグレン、リンネは、言葉を失う。
彼女達は、衝撃的な光景を前に、両手で口をふさいだ。