黒水晶
「ルミフォンド、ありがとう」
エーテルは憂(うれ)いを帯びた瞳でマイを見つめる。
「ルミ…フォンド?」
何のことか分からずマイは首をかしげる。
「父さん、しっかりしてくれ……!」
イサが発する声を聞いて、マイの意識はエーテルからヴォルグレイトの方に移った。
吊るされた状態のまま、ヴォルグレイトは青白い顔で、震えるイサを見下ろした。
「イサ。立派な目になったな」
「どうして、こんなことに……」
ヴォルグレイトは、悪事を働き、受けるべき罰を受けてこうなった。
それは分かっているのに、イサの頬は大雨にあてられたように濡れている。
涙が流れて、止まらなかった。
ヴォルグレイトは、さきほど野心に満ちた恐ろしい顔で妖術を使っていたとは思えないほど、穏やかな瞳をしている。
「やはり、我々人間の力は、魔法の前では無力に等しいな……。
あの時も、私は結局、レイナスに勝てなかった。
ルナを生かせることができなかった……。
認めたくはないが、剣術の力は魔術にも劣る……。
エーテル様とルミフォンドの力、このような形で身に受けることになるとは、皮肉なものだ……。
間違いなく、マイ様は憎きレイナスの子……」
そのわりに、ヴォルグレイトの口調からは全く憎悪を感じられない。
むしろ、さきほどの彼とは別人のように、柔らかさがにじみ出ていた。