黒水晶
「こんな終わり方、認めないから……!」
体を震わせつつ、イサは弱々しい声で言った。
「なぜですか……!
なぜ、こんな馬鹿なことを!
他に方法はなかったのですか!」
「お前に馬鹿と言われるなんてな……。
私も堕(お)ちたものだ」
自嘲(じちょう)気味に笑うヴォルグレイトは、自分の視線を、自身の体を貫く魔術針からイサの顔に移した。
「怖いものなどなかった。
妖術があれば、
禁断剣術があれば、
大抵のことはどうにかなる。
そう信じていた。
でも……」
40年近く続いた命が消えようとして初めて、気付いたことがある。
「私はいま、お前一人をこの世に残すことがこわい……。
私が重罪を犯したことは、すぐさま全世界に知れ渡るだろう。
カーティスも、もういない。
私に従い、この国のために動いてきた兵士達も、過去を知れば間違いなくルーンティア共和国に寝返る。
ガーデット帝国のことを考える人間はいなくなる。
そしたら、誰がお前を守るのだ……?」