黒水晶

もっともヴォルグレイトに近く、彼に対して忠実だったカーティスもいない現在、イサは孤独の人生を歩むことになる。

ガーデット帝国がしっかり機能していれば別だが、今は違う。

この国が断絶するのは時間の問題。

ヴォルグレイトがエーテルの両親を監禁し、自然の神達の力を私利私欲のために使っていたことは、すでにルーンティア共和国の人間に知られている。

エーテルがヴォルグレイトを伐(う)った理由。

それがガーデット城内で明らかになれば、イサが王位を継承できなくなるのは必至。

それだけに留まらず、ルーンティア共和国の命令により、イサは14年間暮らしてきたこの城をも失うだろう……。


そう遠くない未来を想像し、ヴォルグレイトはなげいた。

「人は残酷なまでに冷たい一面を持っている。

世界中の誰もが、没落した国の剣術を使いこなすお前を見て、恐れ、蔑(さげす)み、排除しようと動くだろう……。

そんな道を歩かせたくて、ここまで育てたわけじゃなかったのにな。


本当にすまない、イサ……」

「っ……。そんなっ……。今さら……!」

ヴォルグレイトの目からこぼれる透明の雫(しずく)。

初めて見せた、父親の顔。

イサだけではなく、その場の誰もが悲しみを覚え、苦痛ににじむ涙を流さずにはいられなかった。

< 250 / 397 >

この作品をシェア

pagetop