黒水晶
ヴォルグレイトの呼吸は、秒刻みで、小さく細くなっていく……。
あんなに威圧的で傲慢(ごうまん)だった国王の面影は微塵(みじん)もない。
イサに対抗して剣術を繰り出していた彼の右腕も今は、頼りなく弱々しい。
完全に、生きる力を失っている。
「お前にはなかなか伝わらなかったが、私はお前のことが可愛くて仕方なかった。
愛するルナの忘れ形見だからというのもあるが、それだけではない。
私の息子だからだ。
間違いなくお前は、私やカーティスを超える素晴らしい剣術師になると、信じている」
“それゆえに、イサには嫌われそうなことばかり言ってしまった。
イサの気持ちを考えず、
カーティスの忠告を無視し、
国を繁栄させたいと嘘をつき、
ルナを蘇らせることばかりに心を奪われていた……”
死に際になって思い知った、大切な息子の存在。
「こんな時カーティスがいてくれたら、安心して死ねたのに……。
お前はルナに似て気が強く、素直でまっすぐな奴だからな。
将来どうなるか、本当に心配だ……」
そこまで言うと、ヴォルグレイトは血の気のなくなった青白いまぶたを閉じる。