黒水晶
イサは止まることのない展開に追いつくのがやっとだった。
ディレットはひょうひょうと話し続ける。
「知ってるか? 黒水晶は、代々アスタリウス王国が守ってきた秘宝なのだと。
その能力は未知数。
どんな願いも叶えるし、亡くなった人間を蘇らせることもできる。
悪用されるのを恐れたレイナス様が、ある仕掛けを施し蔵匿(ぞうとく)した」
「なぜお前がそんなことを知っている?」
ディレットの敵意を全身に感じながら、イサは訊(き)いた。
「トルコ国出身のフェルトとレイルですら、そんなことまで知らなかったのに!」
「やっぱりバカ王子だ。
素直に笑いが込み上げてくるよ。面白い」
こわばった表情のイサを前に、ディレットはまるで喜劇を見ている観客のような笑顔を浮かべている。
「ふざけるな!!」
「大真面目だ、これでも。
俺は、今は亡きトルコ国王の息子だったのだからな……!
トルコ国は代々アスタリウス王国に仕えてきたのだ。
内情を知っているのは当然のこと……。
……レイナス様とトルコ国の無念を、今こそ晴らしてやる!
ヴォルグレイトに続き、ガーデットの人間は皆、永逝(えいせい)しろ!
ルーンティアの人間が手を出すまでもない。
俺の手で滅ぼしてやる!!」
ディレットは、エーテルとは違う種類の魔術を放った。
彼の心を実体化したような。
まさに、意思を持つ獣のような鋭い闇色の煙が、一同を襲う。
「させない!!」
エーテルとイサは、それぞれ剣術の光と魔術壁でディレットの攻撃を食い止めようとした。
そうするのが当たり前のように、マイも両手を広げ、仲間を守る透明の壁を展開する。