黒水晶
血を見るような真実の連続に、イサは自分の命すら罪なものだと感じるようになっていた。
いや。『罪悪感』と綺麗事を口にしながら、過酷な現実から逃げようとしていただけなのだ。
これだけの人間を守るのは、エーテルクラスの上級魔術師にとっても難しい。
万能種族·魔法使いの末裔(まつえい)と言われているマイですら、大量の魔力を消耗している。
彼女の全身は、集中豪雨に打たれたかのようにぐっしょり濡れていた。
ディレットの強さは桁(けた)違いだ。
ヴォルグレイトも強かったが、剣術とは比べものにならない。
マイの勇姿を目にしてやっと、イサは自分の弱さに気づく。
自覚はなかったものの、今までは王子という立場に安心してあぐらをかいていたのかもしれない。
ヴォルグレイト亡き今、今後のガーデット帝国の在り方について責任ある対処をせねばならないのに、そこから逃げる道を探していた。
『国のために生きてきた』
そう言いながらそれは口だけで、中身がともなっていなかった。
覚悟の軸は完全にブレてしまい、一人で何かを成し遂げることを放棄しようとした。
王位を継ぐ器量など、微塵(みじん)もない。
「マイ、ありがとう。
大切なことに気付かせてくれて……」
確認するように、イサはじっくり辺りを見渡す。
エーテルをはじめ、テグレンとリンネもあたたかいまなざしでイサを見ていた。
「私たちも一緒に考える。これからのことを」
イサは皆にそう言われたような気がした。