黒水晶
「……さすがレイナス様のご息女。
これだけの人間を守りながら、息切れひとつ起こしていない」
ディレットは複雑な心境でマイを見て、不利な戦況からの抜け道を求めた。
“レイルはともかく、フェルトを倒すのには時間がかかりそうだ。
二人を倒せたとしても、ルミフォンド様との戦いは避けられないだろう……”
正攻法でマイ(ルミフォンド)に勝つのは難しい。
自分の目的を成し遂げることが出来ない。
ガーデット帝国の人間を滅ぼすことも不可能になる。
それは、ディレットにとって思わしくない結末だった。
“エーテルを人質にとってルミフォンド様の防御魔法をやめさせようか?
いや……! 待て……”
黒水晶の入手を諦められず、ディレットは沈思(ちんし)した。
“そうか! こうすれば、黒水晶が現れるかもしれない……!”
なぜ、もう少し早く気付けなかったのだろう。
マイが、予想以上に打たれ強い性格だったことがディレットの計画を狂わせていたが、それももう終わりだ。
ディレットは昔、レイナスから世間話的にこんな話を聞いたことがある。
『ルミフォンドは、エーテル様にとても懐いていてね。
二人にかまってもらえず、リンネがすぐにいじけてしまうんだ。
こういう時、父親はどう動いたらいいものかな。
まだまだ、甘えたい年頃なのはわかるのだけれど。はははは』