毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「当たり前だ。儂は誰よりも毬亜を想っておる。いいか? 他の誰よりも、だ。儂の愛を毬亜に捧げたのだ。幸せになって当然だ」

 べしっと信長に額を叩かれた。

「あ。今、私を『毬亜』って」

 初めて名前で呼んでくれた。

 いつも『お前』だったのに。

「これから儂は『毬亜』と呼ぶ」

「嬉しいです」と私はにっこりと笑った。

 信長もつられるように微笑むと、枕に頭を預けた。

「儂も嬉しいぞ。愛する人間と過ごす時間がこんなにも穏やかなものだとは知らなかったからな」

「信長様?」

「毬亜、疲れただろ。今夜はもう休め」

「疲れたのは信長様のほうでは?」

 私は信長の夜着の襟元を引っ張った。

「ほほう。では明日からは、毬亜が疲れるようにしようか?」

「え?」

 私が疲れるようにって……。

 想像するだけで、私は顔が火がついたように熱くなった。

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