毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「い、意識が。毬亜の意識がも、戻りましたっ」

 聖が声を震わせながら、ナースコールのマイクに向かって叫んだ。

 すぐにバタバタと、看護師や医者が部屋に駆けこんできた。

 誰もが「信じられない」とか「奇跡だ」とか口にしている。

 どうやら私は、まわりの人たちの話によれば、けっこう長い時間、意識がなかったみたい。

 とても、今の状況では聞くに聞けない。

 落ちついたら、聖にでも聞いてみようと思う。

 ちらりと聖を私は見やった。

 聖は、部屋の隅に立ち、ほっとしたように肩を撫でおろしていた。















「4ヶ月間も、昏睡状態だったのにもう退院なの?」

 高校からの友人である草薙 美琴がズズッと梅酒を飲んでから疑問をとばしてきた。

「うん。順調すぎる回復具合だって、先生に言われたよ」

「だろうね」

 美琴が私の頭からつま先まで舐めるように視線を動かした。

 私の行きつけの居酒屋で、親友と回復祝いをあげた。

 聞きたいこともあったし。

 美琴は高校のときから歴女で有名で、今もどっかの大学の研究員として勉強をしているとかって聞いたことがある。

 教授のもとで、何冊か歴史に関する本を出しているって話してたのを覚えている。

 それが戦国時代だったかどうだか……までは覚えてないけど。
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