毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
 美琴になら、話してもわかってくれるような気がして。

 私は、昏睡状態中に経験した話をした。

話が終わると、「うーん」と美琴が重苦しい唸り声をあげた。

「毬亜が事故に遭ってなかったら、精神科医に行って来い!って忠告しているところなんだけど」

 美琴が言葉を濁す。

 ピンク色の縁の眼鏡をクイッと持ち上げると、梅酒を口にした。

「目覚めて、すぐはさ。私も夢だろうって思ってたんだけど」

「そうじゃない問題が出てきたとか?」

 美琴の言葉に私は頷いた。

 鞄の中に手を入れた。

「飲食店でこういうのを出すのは非常識だってわかってるんだけど、美琴には見てもらいたいっていうか、確かめてもらいたくて」

 私は、美琴に会う前に調べてきたものを見せた。

 美琴は目をがっつりあけると、眼鏡を外してまた確認した。

「ちょ……これ!? え?」

「言っておくけど、聖とは私が交通事故に遭う前が最後で、退院してからは……その、無いから、さ」

「何ヶ月って言われた?」

「8週程度じゃないか、って言われた」

 私は陽性反応だった検査薬と、さっき病院に行って来た時のエコー写真を美琴に見せた。
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