毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「ちょ……て、ことは昏睡状態の間に?」

「うん。計算上はそうなるんだけど」

 私は鞄の中に写真と検査薬をしまう。

 生理がなかなかこないから、なんとなく調べてみた。

 まさか妊娠しているなんて思わなかったけど。でも、そういうこともあるのかな?なんて何の根拠もないけど、不安に思った。

 目覚める前に信長と一回だけ経験したから。

 あれが現実なら、私のお腹の中にいる赤ちゃんは信長の子となる。

 でも、まさか。歴史上の人物の子を、昏睡状態中に妊娠するなんて……という気持ちもある。

 なら、昏睡状態中で私を妊娠させたのは誰?って話になるけど。

 時期がちょうど重なるんだよね。

 信長とした時と、妊娠したと思われる時期が。

 だから信じたくなる。お腹の中にいる命は、あのときの子なんじゃないかって。

「その顔だと、心当たりがあるわけだ。信長と」

「あ、うん。一回だけなんだけど。もうこっちには戻れないって思って。戦国の世で生きて行こうと決めた日に」

「で、戻ってきちゃったわけだ」

「そうだね。そういうことになっちゃうね」

 私は、口をへの字に曲げた。
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