毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
 私は周りなんて気にせずに走ってた。

 夜道は暗くて、よくわからなくて。

 車の警告音が遠くでしていると思った。けれど、実際はすごく近くで鳴ってたんだ。

「毬亜っ! あぶな……」

 後ろで声がした。

 好きなはずだった男の声がして、ハッとしたときには、眩しかった。

 そう、車のライトが真横にあって眩しかったんだ――。















『信長様、牢でなくて良いのですか?』

 うっすらと覚醒してきた意識の中で、男の声がした。

「構わん。手当てが済んだのなら、さがるといい。あとは儂がやる」

「信長様自らがやらなくとも」
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