毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「藤吉郎、何か言ったか?」

「いえ。何でもありません。それでは、失礼しました」

 スッと誰かの気配が消えた。

 世界は変わってないみたい。というか夢から覚めたはずなのに、まだ私は戦国時代にいる。

 戦国時代のほうが、夢なはずなのに。どうして?

「女、目覚めたのか?」

「……はい」

 私はゆっくりと瞼を持ち上げた。

 布団の横に、信長様と呼ばれていた男が胡坐をかいていた。

「いろいろと聞きたいが、まずはお前の名前を聞かせよ」

「阿部 毬亜です」

「アヴェ・マリア? 聖母マリアのことか? お前が聖母マリアだと言うのか」

 織田信長が、驚いた表情になる。その影には少し怒りも見えるような気がした。
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