毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「お前は己の国へ戻りたいか?」

「はい。戻れるのなら……戻りたいです」

 私の頭の奥で、ズキンと痛みが走る。

 戻っても何一つ良いことなんて無いかもしれないけれど、戻りたい。

 婚約者に浮気され、結婚がお流れになるかもしれないのに。

 クスッと笑うと、私は唇を噛み締めた。

「何で笑っている?」

 信長の声に、私はハッとして顔をあげた。

「目は泣いてるのに、どうして口元は笑っている?」

 信長の指先が、私の目尻にいく。

 どうやら私は、目に涙を浮かべていたようだ。

 気付かなかった。泣きそうになっていたなんて。

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