毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「戻ったところで、何一つ良いことなんて無いのに。それでも戻りたいって思った自分が可笑しかっただけです」

「なら、戻りたくないのか?」

「でもここは、私が生きてきた場所じゃないから」

 やっぱり、帰りたいって思う。

「住みやすいのなら、儂はどこででも生きていけると思うのだが、な。お前は違うのだろう」

 信長が立ち上がった。

「儂からの質問はそれだけだ。お前が国元へ帰れるように力を尽くそう」

 私に背を向けた信長が、部屋を出て行こうとした。

「あの……!」と私は、考えも無しに信長を呼びとめていた。

「何だ?」

「私が何者で、どこから来たのか……聞かないのですか?」

 私の声掛けに、信長がフッと口元を緩めた。

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