毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「ええ。とても」

 私の答えに、信長が嬉しそうに微笑んだ。

「そうか。お濃は、斉藤氏の間者だ。今も変わらずな。儂の隙を、お濃はうかがっておる。尾張を手にいれるためにな」

「信長様の城なのに、気の安まるときがないんですね」

「間者や刺客はどこにでもおる。油断した者が負けだ」

「そうみたいですね。私は、『戦国時代』と教わりました。戦の絶えない時代だったと。下剋上が叶う時代」

「『戦国時代』か。なかなか良い呼び名だ」

 信長が、天井を見上げた。

 何を考えているのか、わからないけれど。険しい表情ではなかった。

 少しにこやかに笑っているように見えた。

「お前も、気を抜くな。儂の城だからだと、安心はできない。いいな?」

「はい。わかりました」

 私は頷いた。城主である信長が安心できない城だなんて、彼はいったいどこで心と身体を休めているのだろう。

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