毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「信長様、あの……」

「何も言うな。聞きたくない。儂はお前を愛しておる。それだけのことだ」

 信長が深呼吸をしてから、私に背を向けて腰をおろした。

 廊下からばたばたと、駆けつける足音が聞こえてきた。

「兄上、至急お伝えしたことが……」

 信包が息を切らして、部屋を飛び込んでくる。

 その姿を見て、信長が立ち上がった。

「どうした?」

「ちょっとここでは」と信包が言いにくそうに言葉を詰まらせる。

「わかった」と信長が答えると、二人して廊下に出て行った。

 どうしたんだろう。何か、急な知らせでも入ったのかな。

 私は、足を崩すと天井を見上げた。

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