毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
 もう、自分が育ってきた場所には、この先一生戻ることは叶わない……そう思うと、何も手につかなくなる。

 何もしたくない。何も考えたくないのだ。

「ろくな飯も食わずに、もう一週間だろ。何でもいいから口にしてくれ」

 信長の懇願するような声がした。

「いらない」と言葉短く返答すると、私は布団の中でさらに身体を小さく丸めた。

 私が育ってきた世界に戻れなくなったとわかってから一週間が過ぎる。

 ここで生き抜いていく覚悟を決めなくてはいけないのだとわかっている。わかっているけれど、心がすっきりしない。

 信長には、ひどく心配させているってわかっている。

 信長だけじゃない。信包や私の身の回りの世話をしてくれている女御たちにも、心配をかけていると思う。
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