幽霊が恋人。
“慎汰”は私を見る。


「慎汰なの……?」




『…うん。』



私は涙を零しながら慎汰に駆け寄る。



「慎汰ぁっ」






慎汰を抱き締めようとする。









けれど




私の手は慎汰をすり抜けた。









……………え。






『る…琉衣。』



慎汰は戸惑うようにオロオロとした表情になる。



私はすり抜けた手を、もう一度慎汰の身体に向ける。



しかし慎汰には触れなかった。








「嘘……」


『琉衣。俺は……』








私の揺らいだ瞳は慎汰にゆっくり向けられる。





慎汰は落ち着いた表情で口を開いた。









『俺は…幽霊だよ。』








まるで、もう一度風が吹いたように床に落ちた一枚の桜の花びらが舞いあがった。





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