抹茶な風に誘われて。~番外編集~
 そう自分で自分を説得して、うろうろと周りを歩いて発見した裏口。そこはほんの少しだけ開いていて、ちょうど誰かが今出入りしたことを示していた。

「えーっと……すみませーん……」

 遠慮気味に声をかけてみたけれど、通路の電気は消えていて、人の姿もない。仕方なくドアを開けて、入っていくことにした。気分はまるで、泥棒だ。

「誰かいませんかー?」

 もう少しだけ大きな声を出してみる。でも、あいかわらず人の気配はなかった。薄暗いそこは倉庫みたいになっていて、前方にあるドアの隙間からもれてくる灯りでやっと足元が見えるくらい。

 人のざわめきと音楽が聞こえて、そこが店へつながっているのだとわかった。

 あきらめて帰ろうか、と一瞬思ったものの、やっぱりあの信頼しきった純粋少女のまなざしが浮かんでくる。

 ――わかったよ。渡せばいいんでしょ? 渡せば。

 成り行きとはいえ、あんな子と本物の親友なんかになっちゃうから、いけないのだ。最初はただ面白半分で近づいただけだったのに――。

 ちょっとからかってやろうか、あのウブでズレた反応を笑ってやろうか、そんな気持ちが仇になった。手ひどい火傷を負わせてやるつもりが、逆に負けたのはあたしのほうで。

 どんな嫌味にもいじめにもあの子は凛と咲いた花のまま。倒れもせず、枯れもせず、明るい太陽を信じて咲き続けて――最後には、どんな嵐にも、毒虫にも、稲妻にさえ負けない姿を見せつける。

 本気であたしのために泣いて、バカみたいだって思ったのに……嬉しくて。もうずっと、誰もそんな風にあたしに向き合ってくれる人なんていないと思ってたから心に染み渡って。

 だからあたしは――大嫌いでたまらなかった聖女のようなあの子と、本当の親友をやってみることにしたんだ。

「おーい、駄目元―」

 そこかしこに置かれたダンボールなんかを避けて歩きながら、ドアの隙間から呼んでみた。でも音楽がうるさい店内には届いた様子もなくて、あきらめたあたしがドアをそっと開けた、その時だった。

 まるで予想していなかった光景に、あたしは目を見開いたまま立ち尽くしてしまったのだ。
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