抹茶な風に誘われて。~番外編集~
「ヒカル……」
聞こえたのは甘ったるい女の声。その持ち主が顔の角度を変えるたび、長い黒髪がさらさらと滑り落ちる。ワックスでセットされた金に近い茶髪を、女の細い指がもてあそぶ。
口紅と同じ真っ赤なマニキュアがやたらといやらしく見えて、ドキンとした。
「チョコなんかより、あたしがいるじゃない……ヒカル」
愛しそうに、切なげに、耳元に囁きながら――女は何度も何度も唇を合わせている。黒髪が流れ落ちて、見えなかった顔がちゃんと見えたその瞬間、なぜか足まで凍りついた気がした。
店内へ上がる数段の階段。その一番下にスーツ姿のまま座り込んで、目を閉じたまま女のキスを受けていた男――それこそが、あたしが義理チョコを渡しに来た、駄目元、もとい亀元。
ヒカル、と連呼される名前が、そいつの源氏名だとかなんとか、オカマのハナコさんが言っていたっけ。
頭の中で結びついていく目の前の事象と状況。それはただ、亀元が見知らぬ女とキスしている、というだけのことであるのは理解できた。
なのに――なんであたしはこんなに固まってるんだろう。
「ん……? 何よアンタ」
少し赤い頬でキスに熱中していた女が、あたしに気づいて眉を寄せる。不服そうな表情を抜きにすれば、立派に美人の範疇に入る女の尖った声で、ゆっくりと亀元が閉じていた瞼を開いた。
「……あ?」
お間抜けすぎる声と素直な反応。今の今まで女と濃厚なキスを交わしていた男とは思えないくらいに普通の顔で、亀元があたしを見とめた。
「え――? ちょっ……待てよ、おい!」
聞こえたのは甘ったるい女の声。その持ち主が顔の角度を変えるたび、長い黒髪がさらさらと滑り落ちる。ワックスでセットされた金に近い茶髪を、女の細い指がもてあそぶ。
口紅と同じ真っ赤なマニキュアがやたらといやらしく見えて、ドキンとした。
「チョコなんかより、あたしがいるじゃない……ヒカル」
愛しそうに、切なげに、耳元に囁きながら――女は何度も何度も唇を合わせている。黒髪が流れ落ちて、見えなかった顔がちゃんと見えたその瞬間、なぜか足まで凍りついた気がした。
店内へ上がる数段の階段。その一番下にスーツ姿のまま座り込んで、目を閉じたまま女のキスを受けていた男――それこそが、あたしが義理チョコを渡しに来た、駄目元、もとい亀元。
ヒカル、と連呼される名前が、そいつの源氏名だとかなんとか、オカマのハナコさんが言っていたっけ。
頭の中で結びついていく目の前の事象と状況。それはただ、亀元が見知らぬ女とキスしている、というだけのことであるのは理解できた。
なのに――なんであたしはこんなに固まってるんだろう。
「ん……? 何よアンタ」
少し赤い頬でキスに熱中していた女が、あたしに気づいて眉を寄せる。不服そうな表情を抜きにすれば、立派に美人の範疇に入る女の尖った声で、ゆっくりと亀元が閉じていた瞼を開いた。
「……あ?」
お間抜けすぎる声と素直な反応。今の今まで女と濃厚なキスを交わしていた男とは思えないくらいに普通の顔で、亀元があたしを見とめた。
「え――? ちょっ……待てよ、おい!」