私の片想い事情 【完】
ちょうど三年前、隼人が大学二年の夏―――
隼人の実のお母さんが15年間の沈黙を破って、隼人の前に現れた。
それは、隼人と西崎家にとって、最悪の夏の始まりだった。
15年振りに西崎家の敷居を跨ぐ彼女は、リフォームされ、変わってしまった嘗ての住かに、趣味が悪い、と毒を吐くと、その家の主のようにリビングのソファに座った。
そして、嫣然と微笑みながら言った。
「今日はお願いがあって来たの。隼人を私に返してくれない?」
この家を出て以来、隼人に関しては、一切音沙汰なかったのに、急に現れたかと思うととてつもなく勝手なことを言い出す傲慢さに、誰もが唖然とした。
それに真っ向から反対したのは、静香さん。
勿論パパさんもその場で断った。
隼人は、お母さんに殴らんばかりの勢いだったそうで、彰人君が止めに入らなければ、どうなっていたかわからないと言っていた。
隼人が怒りを露わにしても、優雅に出された紅茶をすする彼女の度胸はあっぱれとしか言いようがなく、綺麗に微笑みながら、勝手に条件を話し出したという。
これは、彰人君からの後日談だけど、世界が自分を中心に回っていると思っている傲慢さも我がままさも、隼人とそっくりらしい。
これを本人に言うと烈火のごとく怒り狂うから、みなみちゃんにだけね、と言って彰人君が教えてくれた。