私の片想い事情 【完】
「あんたの話は親父も俺も断った。まだ何かあるのか?」
隼人の声が低くなる。挑発に乗らないように必死で耐えているのは、彼の顔を見なくても分かった。
「ねぇ、あんたって言うのやめてくれない?不快だわ。今更お母さんなんて呼んで欲しくないけど、ああ、綾子でいいわ」
「俺にはあんたの存在自体が不快だよ」
隼人はあえて「あんた」と強調する。
「嫌な子。性格は真治さんに似たのね」
「親父を侮辱するな」
「あら、そんなにお父さんが好きなの?でも、産んであげたんだから、一つくらい私に恩返ししてくれないかしら?ね、そこの彼女も隼人を説得してよ」
そう言って私にウィンクする彼女には、隼人の憤りも私の不快感も伝わらない。
「私は隼人と隼人の家族の意にそぐわないことは絶対にしません。今ここにいるのは隼人がお母さんに、綾子さんに殴りかかって警察沙汰になるのを防ぐためですから」
嫌味をこめて言ったつもりが、クスクスと笑われた。
「みなみちゃんと言ったかしら?かわいいのねぇ」
「みなみに構うな」
「あら、まぁ、そうなの?」
綾子さんは、何か納得したように笑う。
綺麗にルージュが魅かれた魅惑的な口元は弧を描くようにほころび、私ですらその魅力にとらわれそうになる。でもその口から発せられる言葉は、隼人にとってとても残酷な内容だった。