私の片想い事情 【完】
「まさか、あの家が居心地いいなんて言わないでしょう?他人がいるのよ?」
「あんたと暮らすことを考えれば天国だけどな」
「ふ~ん。私だけ悪者なのね」
意味深に笑う彼女に嫌な予感がする。
「私が出ていったのは、私が男を作ったからだけじゃないわよ」
怪訝そうに眉根を寄せる隼人に、私は、危険な何かを察知した。この内容を隼人に聞かせてはダメだと。
「隼人、もう行こう。プールの時間だよ」
隼人の腕を掴み、立ち上がらせようとひっぱるけれど、彼女は構わず続けた。
「みなみちゃん、私は仕方なく家を出ていったのよ。愛する我が子を置いていくほど絶望していたから。出て行きたくて出て行ったわけじゃないわ」
「そ、そんなこと、詭弁です。今更です。あなたが隼人を置いて出て行った理由にも、その後一度も会おうとしなかったことへの弁明にも何にもならない!」
私はこれ以上綾子さんと隼人を同じ空間に置いておきたくなくて、必死で隼人の腕をひっぱった。
「そうね、みなみちゃんの言うとおりかもしれないわ。でもね、最初に浮気したのは真治さんよ。いえ、最初から彼は私のことなんて愛してなかったけど」
「どういう、ことだ?」
隼人が私の腕を振り払い、射るような視線で綾子さんを睨む。
「私たちのこと何も聞いてないのね?私たちは親に決められたお見合い結婚。二人の間に愛なんてなかったのよ」
楽しそうに話す綾子さんが怖かった。私は隼人の隣に座り直し、ぎゅっと隼人の手を握った。