私の片想い事情 【完】
「あら、バレた?迫真の演技だと思ったのに」
悪びれもなくそう言い、綾子さんは優雅にコーヒーを啜る。
この人とは絶対に相容れない。
ううん、理解したいとも思いたくなかった。
「時間の無駄だ。こんな茶番に付き合っていられない」
隼人は私が握っていた手をぎゅっと握り返し、席を立った。
混乱していないはずがなかった。
お父さんにも想い人がいて、それが静香さんだったと聞いて。
そんな隼人に綾子さんは最後の追い討ちをかけた。
「ねぇ、あの家で暮らしていて本当に幸せなの?あなたは愛されずに産まれた子どもよ。そして、あの家には愛され、望まれて産まれた子どもがいる。虚しくならない?」
その言葉に、隼人の瞳に動揺が走るのがわかった。
「私と来なさい。真実を知った今、あの女と一緒に暮らせないでしょう?私なら―――」
最後までは言わせなかった。
私は、グラスに入った水を思いっきり綾子さんの顔にかけ、「二度と隼人に近寄らないで」と捨て台詞を吐き、隼人の手をひっぱって喫茶店を出た。