私の片想い事情 【完】
それぞれのコーチが事務所を出たあと、私はマネージャーを呼びとめた。
「どうした、みなみ?」
「あの、高橋君はどうするんですか?」
「ああ、彼は選手コースには入れない」
「え?」
てっきり高橋君を選手コースに入れる目的もあったのかと思ったけど、そうではないらしい。
驚く私に、マネージャーは更に驚くことを告げた。
「今日一日彼を見て思ったが、今無理するべきではない。もし、お父さんが記録にこだわりすぎるようならJOのエントリーからも外さなければならない。今の高橋君には、良い記録も出せないだろう」
「お父さんが納得するでしょうか?高橋君自身だって……」
「みなみ、JOの9歳以下の50メートル自由形の標準記録は、今や31秒を切っている。高橋君は、32秒を切れるかどうかというところだろう?無理させる必要はない。今身長も伸びているし、彼は中学で伸びる可能性の方が高いな」
「そうなんでしょうか」
コーチ歴15年のマネージャーにそう断言されれば、私は何も言い返せない。
いや、私も高橋君を選手コースに入れるのは反対だけど。
「お父さんには俺から説明する。高橋君自身のケアはみなみに任せる」
「わかりました」
私はこれ以上何も言わず、一礼だけして、事務所を後にした。