理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
「ゴメン、ちょっと電話」

食事も終わり、和やかな雰囲気でのお喋りの中、イッセイの携帯の着信音が鳴り響き…

「音くらい切っとかな」

顔をしかめるお兄さんに、『ゴメン』とジェスチャーをして席を立つ。


「ウチもちょっと…」

と、葉子さんまで御手洗いへと席を立ってしまい…

テーブルを挟んで、お兄さんと二人きりになってしまう。


その途端…

会話は途切れ、重苦しく変わっていく空気につい、俯いてしまう。



「彩さん」

秀晴さんの声に、顔をあげると…

そこには…

さっきまでの陽気で明るいお兄さんではなく…

私を見定めようとしていることが見て取れる、笹森家の人がいた。



「ホンマは、逸晴とは、どこで知りおうた?
いつから追いかけとったんや?」

イッセイと同じ、真っ直ぐに人を射抜く瞳。


けれど…

何かが違うその目を、真っ直ぐに見返す。


「昨日、生まれて初めて狂言を観ました。

皆さんのことは勿論、イッセイさんが狂言師であることも…

漢字では『逸晴』と書くことすら、パンフレットで知りました」

真実を、正直に口にする。


「ほんなら…
『交際を認めてくれ』
とは、言わへんのか?」

眉を顰める、秀晴さんに…

「交際なんかしてませんし…
そんな立場になれないコトも、承知してます」

首を横に振って、否定する。


「そんなら、アンタ…
これから先、どないするつもりや?」

表情を崩さない、秀晴さんは…

疑惑の追求以上に、私の心を追いつめていく。


「…これから?

これからは………帰るだけです。

私はただの観光客ですから、あと4日で福岡に帰ります」

ワンピースの裾を、ギュッと握りしめて答える。

他の答えなんか無いって、分かっているのに…

口にすると、セツナさで息苦しささえ覚えてしまう。


けれど、これは…

間違いなく、旅行中だけの関係。


お互いに割り切った、オトナのアソビ。


それが真実で…

それが私達の関係を表す、全て。
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