理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
「篠原」

短く名前を呼ぶと、席を離れた秀晴さんを葉子さんは追わず、代わりに…

「逸晴君、ちょっと…」

そう言ってイッセイの元へと近寄り、

「年のために一応確認しときたいんやけど…

ウチに彩ちゃん預ける言うコトは、そういうコトや思てエエの?」

『そういうコト』が、どういうコトなのか私には分からなかったけれど…

笑顔ひとつ見せずに、

「はい」

と頷いたイッセイの態度と、さっきまでの秀晴さんとの会話が重なって…

どうせロクでも無い話だろうと、あえて詳しくは聞かなかった。


聞いたところで、傷つくのは目に見えているし。


「ほな、しっかりお預かりします。

彩ちゃん、連絡先の交換しとこ?」

葉子さんの提案に頷いて絡先を交換し、イッセイと一緒に車に乗り込む二人を見送る。


「彩ちゃん、また明日ね」

穏やかな笑みの葉子さんに…

「はい。よろしくお願いします。
今日はご馳走様でした」

お礼を言って、頭を下げると…

「彩さん、せっかくの旅行や。
色々と楽しんでいってな」

秀晴さんからの、優しい口調と…

噛み合わないほどの鋭い視線に、釘を刺されながら…

「はい。
ありがとうございます」

無難な言葉でなんとかやり過ごした。


二人の車が出たのを確認すると、イッセイはもう一度お店へと戻り、篠原さんを呼ぶ。


アルコールを飲んでしまったイッセイの代わりに、運転してもらえるように頼んでおいたらしい。



「自分の車の後部座席いうんは、なかなか新鮮やな」

酔っているのか上機嫌でそう言うイッセイに…
『イッセイは助手席でも構わないよ』
という言葉を飲み込んで、二人で並んで座る。


抱き寄せられた肩に寄りかかりながら、

「良い人だね、篠原さんて」

そう呟くと…

「せやろ?
葉子さんと一緒に居る時の兄貴の姿なんて、世間様には見せられんからなぁ。

『あないデレデレした男に、次期当主が務まるんかいな』
って、言われるのがオチやし。

せやから、今夜は篠原に、うまくセッティングしてもろうたんや」

イッセイがそう答えてくれたコトで…
『私の存在を隠す為じゃなかったんだ』
って思えて、嬉しくて思わず笑みがこぼれる。


「ん?どないしたん?」

笑顔のままの私を不思議に思ったのか、顔を覗き込んでくるイッセイに…

「酔ってるイッセイ、可愛い」

誤魔化し半分、本心半分でそう答えると…

「…可愛いねぇ?
可愛いだけじゃすまへんトコ、見せとこかな」

思案するように天井を見上げる。


「へっ!?」

予想外の展開に、イッセイの顔を見上げると…

「アヤ…
今夜は覚悟してもらわなアカン。

酔うてるし、テンション上がってるし、昨夜みたいに途中で止めたりできひんかもしれん」

耳元で囁かれる、突然のイッセイの暴走モードに…

「えっ!?なんでっ!?
っていうか、途中で止めたの?

イッセイ大丈夫?
しんどくない?

アレが途中なら、最後までしたら、どうなるの?」

テンパって、篠原さんも乗ってるっていうのに、とんでもない発言をする私に…

「どないなるかは、今夜たっぷり…
身を持って経験して貰おか」

ニヤリと、あの悪~い笑顔が現れ…

まるで私に…

『覚悟を決める以外の選択肢は無い』

と、告げているように見えた。
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