理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
「お互い22歳やったから、ちょっと若すぎたとは思うけど…
後継ぎ大事の芸事の家やいうコトで、両家共に好感触でな、晴れて家族公認のもと堂々とお付き合いするようになって…
花嫁修業の真似事みたいなコトもしてな…
あの頃が一番、幸せやった」

頬をピンクに染めて、懐かしそうに微笑む葉子さん。
けれど、その表情は直ぐに曇り…

「けれど…
その年の秋に、逸晴君が21歳の若さで釣狐を披いて、
『優ちゃんと結婚したい』
って、言い出したの」

睫を伏せる葉子さんに、何か大きな問題が起きたことは察せても、話がよく見えない。


…つりぎつね?
つりぎつねって、何?

…ひらくって、どういうこと?

この知らない言葉、通じない言葉が…
まるで、私とイッセイの住む世界の違いを表す距離のように感じられる。



「その後は、大騒動。

『娘しか居てへんのに、どないするんや。
長女らしく、婿をとれ!!」

って怒鳴り散らす父親と、

『同じ家から、姉妹で…いうんは、ちょっとなぁ…』

言わはる笹森家。

このままでは、ウチらの結婚も白紙に戻されかねんような状況で…
お互いにどないしたらエエのか分からんようなってしもて、姉妹で泣いたり、ケンカしたり。

お互い、自分の気持ちに嘘はつけんし…
かと言って、相手の為に身を引く勇気もない。
自分の幸せと、相手の幸せを天秤にかけるコトが恐ろしゅうて、泣くことしか出来ひんかってん。


せやけど突然、逸晴くんが…
逸晴くんが身を引いてくれて、ウチらは結婚出来たんや。

『マスコミに追い掛け回されるのに疲れてしもて…
疲れすぎて、気づけば気持ちも離れていってたのに…
兄貴に負けたくなくて、意地はってただけやねん。
イケズが過ぎたわ、堪忍」

逸晴君からはそれ以上、詳しい理由は教えてもらえへんまま…
優ちゃんも、その年のうちに、能の他の流派の方とお見合い結婚して…
お互い、自分の兄弟・姉妹とは交流があっても、気まずさから4人で顔を会わすコトはほとんど無ぅなってしもたわ。

せやけど…
結婚を譲ってくれた優ちゃんには男の子が3人も授かって、譲られたウチには、跡継ぎどころか、子供すら授からんなんて…
天罰かもしれへんわ」

そう言うと、葉子さんは、悲しげに目を伏せて、ため息をついた。
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