理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
「もうちょっとだけ、呑みたいな」

長い廊下を肩を抱かれて歩きながら、そう甘えてもたれかかってみる。


アルコールが欲しかったワケじゃないけれど…
頭の中でリフレインする、鳴り止まないあの声を忘れてしまいたくて。


「ほんなら、ルームサービス頼もか?
ワインとチーズとフルーツあたりでどない?」

「うん、ありがとう」

今だけ…という言葉を飲み込んで、酔ったふりで甘えながら、イッセイに躰を預けて歩いた。


部屋に戻ると、ルームテレフォンが鳴り響いていて…

「…珍しいな」

怪訝そうな顔をしながら、イッセイが受話器を手にした。


「はい、もしもし…
ええ、坂本は、一緒におりますが…

えっ?
すみません、もう一度…」

明らかに戸惑ったイッセイの表情と、自分の名前が呼ばれているコトが、『良クナイ何カ』だと知らせてくる。


受話器を外したイッセイが…

「アヤ、君宛の電話や。
話したない相手なら、切ってしもうたかて構へんで」

明らかに苛立った口調で、眉間にシワを寄せたまま不本意そうに話器を差し出し、背を向ける。


…まさか、優香さん?

襲いかかる不安に、緊張で声が震える。


「…もっ、もしもし?」

「………」

「もしもし…?」

返事のない受話器の向こう側に、もう一度呼び掛けると…


「…よぉ、彩…
俺を残して、よく一人で旅行なんか出来たな」


受話器の向こうから聞こえたのは…

洋介の声だった。



「なっ、何でココが…」

「どこに泊まるか、二人で話し合っただろ?
まさか、他の男と一緒だとは思わなかったけどな。

俺を捨てて、芸能人の彼氏か?
さぞ旨いもん食って、いい思いしてんだろ?

こっちは、お前が鍵まで付け替えやがったせいで、食いもんすら無ぇんだよ!」

洋介の怒鳴り声と、何かを蹴りつけたようなハデな音が受話器の向こう側から響き、ビクリと体が震える。


「謝るなら今のうちだぜ?さっさと帰って来いよ。
素直になれば、悪いようにはしないからさ。

だいたい、どうせ不感症じゃ喜ばせられもしないだろ?」

そこまで聞いて、ガチャンと受話器を置く。


「大丈夫か?」

心配したイッセイが、そっと隣に腰を下ろし、顔を覗き込んでくる。
その顔に両手を添え、勢い任せに唇を押し付ける。

舌を割り入れようとする私を宥めるように距離をとり、コツンとオデコを当てて…

「アヤ、どないした?
何で泣いてんのや?」

優しく髪を漉くその手に縋るような気持ちで、

「いいから、お願い…
抱いて」

イッセイの唇を乱暴に塞いで…

頭に鳴り響く、優香さんと、洋介の言葉を、振り払おうとした。
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