理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
エスカレーターが終わり、押しつぶされそうな程の人の波に流され…

通路を左に曲がったところで、彼を視界から見失ってしまう。


『…目があった…』

ただそれだけのコトなのに…

涙が溢れてきて、止まらない。


『役者さんと目があったから』

なんて、ミーハーな理由なんかじゃない。


私の躰の奥底から湧き上がってくる熱い感情が、ひたすら涙になって…

…うまく歩けない。



よろけるように、壁にもたれかかった…



と、思った瞬間…



がっしりと、強い力で支えられ、そのまま抱きしめられる。


突然のコトに、驚いて声も出ない私に…


「…会いたかった」



絞り出すように、そう言った彼は…

抱きしめた勢いそのままに、唇を重ねた。
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