理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
袴の胸元を正そうとした彼が…

「うわっ、やばっ…」

と呟き、大きな鏡の付いた洗面台を覗く。


「あー、やってしもた」

そう言いながら、壁掛けの時計を見るのを、つられて私も顔を向ける。


時計は、18時丁度を指していて…

「よし」

と、軽く頷いた彼が…

「ゴメン。
ホンマに行かなアカンねん。
キミかて身支度が必要やし、俺もコレじゃあ…な?」

そう言って…

私がしがみついて、皺だらけにした上に…

お姫様抱っこした時に付いたであろう、ファンデーションと、リップグロス付きの胸元を指差す。


「すみません。
ごめんなさい。
どうしよう…

あのっ…クリーニング代、払います」

慌てる私に…

「かまへん。
もう、前払いしてもろたし」

親指で下唇をなぞって、ニヤリと笑う。


「まっ、前払いって、何言ってるんですか!?」

動揺する私を、面白そうに…

「えっ?もっと?
案外、大胆やな。

ほな、今は時間が足りひんよって、後からゆっくり、たっぷり、な?」

ウィンクして、笑った。


「あっ、そや。

俺の名前は、笹森逸晴や。
イッセイって呼び。

『君』も『さん』も『様』もナシやで!」

ドアノブに手を掛けながら言う。


「イッセイ…

あの、私、坂本彩です」

「アヤな。

ケータイ番号、言うて。
覚えるから」

「えっ?」

「早う」

「はい。
0××-××××-××××」

「0××-××××-××××な!
覚えた。

舞台終わったら電話する」

「えっ!?あっ、はい」

驚き、戸惑う私を余所に、そう言ってドアを開けると…

「ちゃんと見て、ホレろよ!」

ニヤリと笑ってドアを閉めた。
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