理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
一瞬で離れた唇に、寂しさを感じていると…

フッと口元を緩ませ…

「後でゆっくり…な?」

そう言って、ポンポンと、頭を撫でる。


「ビール」

そう言いながら腰掛けたイッセイに…

「いらっしゃいませ。
こちらの可愛らしいお嬢さんは、逸晴君のお連れ様でしたか」

ビールを注ぎながら、年配のバーテンダーさんが、微笑み…

イッセイも、笑顔を浮かべて…

「可愛いでしょ?
アヤは、俺の運命の人なんだ」

なんて言うから…

お酒の席の冗談だって分かってるのに、ついドキドキしてしまう。


「お上手ですね。
あの…慣れてるって言うか、なんていうか…」

「慣れてる?」

「はい。
あの…実は私、ナンパなんて初めてで…

こんな風にスマートなお世辞も慣れてなくて…」

余裕の無い、しどろもどろな私。


「俺かて、こんなん初めてや」

「うそ…」

「嘘やない。

あんな風に声をかけたんも初めてやし、こんな風に飲みに誘うのも初めてや。
告白すら、自分からしたコトなんか無いしな」

その表情からは、本当か嘘かなんて分からなかったけれど…

深く追求しない、相手を心地良くさせる…

そんな上辺だけの会話が、こういう時のマナーかもしれないと思うと…

それ以上は何も言えなくなる。


「だいぶ呑んだん?」

そう尋ねる、イッセイのビアグラスも、もうすぐ空になりそう。

「これが2杯目です。
何か頼みますか?」

「うん。
すみません、もう一杯」

バーテンダーさんが、ニコリと微笑んだ。


「敬語、止めてくれへんかな?」

「だって、あんなスゴい人だって知っちゃったら…」

「スゴいのは、笹森家。
そして国宝じいちゃんやから…
俺ちゃうし

まぁ、ベッドの上で『スゴい』って言われるなら、大歓迎やけど」

さりげなくウィンクされ、ドキドキしてしまう。

「また、そういうコト言って…」

頬を膨らましてプイっと、そっぽを向くと

「試してみぃひん?」

甘い甘い重低音が、耳元に囁かれて…

驚いて振り向けば、イッセイの真っ直ぐな視線が、私を捕らえていた。


漆を塗り込めたかのような、綺麗な漆黒の瞳に、真っ直ぐに射抜かれると…

まるで催眠術にかかったかの様に、コクリと頷いてしまっていた。
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