理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
「この轟門が、本堂の入口や。
まず先に、御手水で清めよ」

イッセイに促され、轟門の手前にある、龍の口から水が流れる手水鉢へと向かうと…


「はい、手ェ出して」

そう言いながら、柄杓で掬った水を、ゆっくりと私の合わせた両掌にかける。


「冷たくて気持ちいい~」

ゴシゴシと掌をこすりあわせ、涼感を楽しんでいると…

その様子に優しく微笑むイッセイが、もう一杯、掬いかけながら…

「梟手水鉢の水を飲むとな、頭痛や歯痛が治る言われてんのやけど、飲んでみる?」

と、尋ねてくれる。


「う~ん。
今回は、遠慮しとく」

本当は、うだるような暑さの中での、冷たい水の誘惑は魅力的だったけれど…

ウォータープルーフとはいえ、口紅が柄杓に付いてしまったら…と、気になってやめておいた。


グロスで、柄杓をベタつかせてしまったりしたら、大変だもん。


そう考えながら、濡れた手を拭くためのハンカチを取りだそうと、籠バッグに手をかけると…

「そうか?
ほな、はい、手ェ出して」

イッセイに止められ…

まだ他にも何か手順やするべきコトがあったのかと、慌てて濡れたままの両手を差し出す。


イッセイは、ジーンズの後ろのポケットから、綺麗にアイロン掛けされたハンカチを取り出して広げると…

まるで私の両掌をハンカチでくるむ様に、優しく水分を拭き取る。


男性にそんなコト、されたコトなんかなくて…

「ゴ…ゴメンね。
ハンカチくらい、持ってたのに」

恥ずかしさで上擦る声で、謝ると…

「気にせんかてエエよ。
それに…
どうせなら感謝の方が、嬉しいんやけど」

そう言いながら柄杓で水を掬うと、自分でかけてしまおうとするから…

「待って。今度は交代」

柄杓を奪って、水を垂らす。


「水は龍の口から湧き出ているのに…
『梟手水鉢』なんて、おかしなネーミングだね」

そう言って首を捻る私に、濡れたままの手で、手水鉢を支える石を指差して見せると…

そこには、梟の彫像が施されていた。
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