理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
「なるほど、そっちなんだね~。

あっ、ゴメンね、これ…濡らしちゃって」

納得しつつ、借りたハンカチを返す。


「ゴメンや無うて、『ありがとう』やろ?」

眉を上げて、私の顔を覗きこむイッセイに…

「うん。ありがとう」

と、素直に訂正してお礼を言うと…

「どういたしまして。
アヤは、ようけ間違うてしまうなぁ?

昨夜もあんなに喜びながら『やだ』だの、『ダメ』やの言うてたし」

なんて言い出すから…

「ちょっと、シー!」

唇に人差し指を充てて、ジェスチャーで訴える。


気にもしない様子のイッセイは、柄杓で水を掬うと、口に含み…

私の顎を支えて、水を流し込んでくる。


突然のコトに、驚きで見開いた目は…

抵抗も、何も出来ずに、ただ…

漆塗りの瞳に、吸い寄せられるように…

目を逸らせないままに、見つめてしまう。


口の中に流し込まれる水を、喉を鳴らして飲み干し…

口の中が空っぽになると…

代わりに、押し入ってきた、イッセイの舌が…

私の舌を撫でると、直ぐに離れていってしまう。


その喪失感につい…人前にも関わらず、はしたなくも…

『もっと…』

なんて思ってしまう。


置き去りの私の気持ちを、いなすように…

「口を塞ぎたかったら、こうせな」

優雅な手つきでハンカチを畳みながら、何事も無かったかの様に…

イッセイは曇りのない笑顔を、いたずらっ子のように向けた。
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