理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
それから…

駐車場に着くまで、うまく会話は出来なかった。


ただ、イッセイの問いかけに当たり障りのない答えを口にして…

周りのお店に気を取られているフリをして、キョロキョロしながら、目線を合わせない様にした。


『誰?』
だなんて、尋ねる勇気も権利も無い、私。


『尋ねる必要の無い存在』として扱った、あの女性。


そして…

私とあの女性。


お互いについて、紹介しようとしなかったイッセイの態度が、全てを物語っていた。



重い気持ちを引きずりながら、ようやく辿り着いた駐車場。


変わらない優しさで助手席のドアを開け、私を促すイッセイ。


それなのに私は…

イッセイを避けるように、ドアが閉まった途端、シートベルトを先に締めて距離を取る。


…今は、イッセイを近くに感じたく無かったから。


運転席のドアを開け、乗り込もうとしたイッセイに、数人の女の子のグループが、声をかけてきた。


「あの~、狂言師の笹森逸晴さんですよね?」

「はい」

イッセイが返事するのと、彼女達から黄色い悲鳴が上がったの、どちらが先だったかは分からないけれど…

耳をつんざくような悲鳴がかったテンションも、甘えたような猫なで声で話しかけているコトも…

正直、面白くない。


それなのに、躰を起こして佇まいを直したイッセイは、彼女達を確認すると…

「ちょっとだけ待っといてな」

そう言いながらエンジンをかけ、バタンとドアを閉めてしまった。


車のエンジン音と、車内に流れるBGMで、イッセイと彼女達が何を話しているのかは聞こえなかったけれど…

写真やサインに応じているイッセイの姿から、ファンの人達なんだということは、容易に想像できた。


運転席の窓ガラス越しに見える光景は、まるでテレビでも見ているかのようで…

距離を取りたいと、ほんの少し前まで思っていたのに…

ドア一枚を隔てた、その距離は…

すぐ目の前にあるのに、決して手が届かない。


まるで…

イッセイの住む世界と、平凡な私の住む世界との隔たりを表す、遠い遠い距離の様に感じられて…

その光景に背を向けて、現実から目を逸らすことだけが…

私に出来る、精一杯の抵抗だった。
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