理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
車で30分程走ると、街中の喧騒とは無縁の、幻想的な雰囲気の場所に到着する。


「目的地は、もうちょっと先なんやけど…
ちょっとだけ付き合うて」

そう言ったイッセイに連れられて来たのは、神社。


川のせせらぎと、小鳥の囀りしか聞こえない、圧倒的な大自然の静寂に包まれ…

心が洗われる様な、澄んだ空気を感じる。


「…すごいね。

上手く言えないけど…
『おごそか』って、こういう雰囲気のコトなんだろうね」

圧倒される私に…

「ココはな、貴船神社や。

古くは気生根と書いて『きぶね』と読んでた時代もあってな…
気が生ずる所、いう意味があるんや。

せやけど、ココに来さいすれば、そんなん知らんかて、その意味がよう分かるやろ?」

たくさんの鳥居が並ぶ石段を上がりながら、私の手を引く、イッセイの言葉に頷く。


「貴船神社は、鴨川の源流でな…
水の神様として信仰を集めてはんのや。

和泉式部が、夫の愛を取り戻す為に通たコトから、縁結びの神としても有名なんやけどな」

イッセイが、意味ありげにウィンクをするから、つい俯いてしまう。


『…御縁なんか要らないって思ってるクセに』
と、卑屈になりながら。



しばらく歩くと…

杉林がうっそうと繁り、薄暗くて、独特の雰囲気が立ち込めていて…

思わず、イッセイの腕にしがみつく。


「怖いか?

ココはな…
貴船神社から、源義経ゆかりの鞍馬寺へ抜ける山道になっとんのや。

昼間でも薄暗いんやけどな…
ホラ、見てみ。

木の根が固い地表に浮き出して、張り巡らされてるやろ?

この奇観が、子供心に神秘的でなぁ…

よう見てみ?
今にも牛若丸が飛び出してきそうやろ?」

イッセイの言葉に習うように、ぐるりと辺りを見回すと…

不思議と、さっき感じた薄気味悪さが消え、牛若丸が走り回る姿が思い浮かぶ。


「兄貴とようココで、牛若丸ゴッコやってなぁ~。

木の根に躓いて転ぶから、帰る頃には泥だらけなってしもて、オカンか呆れとったわ」

無邪気な笑顔を浮かべるイッセイが、まるでその頃に戻ったかのように見えて…

私よりずっと年上だと思っていたけど、意外と年は近いのかななんて考えていたら…

イッセイの年齢すら知らないコトに気づいく。


イッセイのキスや躰は知ってるのに…

そんなコトすら知らない事実に…

今更ながらに恥ずかしく感じた。
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