理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
貴船神社を後にして、目的地へと再び車を走らせる。


着いたのは、看板の挙がっていない大きな一軒家。


重厚な黒一色の外壁に、辛子色の暖簾が靡いて…

左端に小さく『しの原』と刺繍されていたコトで、店名だと気づいたほどだった。


イッセイに肩を抱かれながら暖簾をくぐり、玄関扉を開けて店内に入ると、外壁と同じで壁一面が真っ黒で驚いたけれど…

床板の木の風合いや、間接照明の温かみ、飾ってある花々の色合いがよく栄えていて、美しく感じられた。


「いらっしゃいませ。
ようこそお越し下さいました」

手をついて、深々と頭を下げながら迎えて下さった甚平姿の男性を見て、驚く。


あの楽屋に、イッセイのメモを持ってきてくれた男性だったから。


「あの…昨日はどうも、ありがとうございました」

ぺこりと頭を下げると、イッセイも…

「無理言うてすまんかった。色々おおきにな」

と、キレイなお辞儀をした。


「何のことでしたか記憶にございませんので、その様なお気遣いは無用です。

ささ、どうぞこちらに。
お連れ様もお待ちです」

何事も無かったかのように、聞き流す彼の後ろを歩きながら…

「何も見ぃひんかったコトにしてくれるみたいやな。

篠原は、行儀見習いを兼ねて、ウチの書生をしてるけど…
ホンマは、この店の息子なんや。

口が固ぁて、機転が利くから、こういう時には助けてもらってる」

イッセイの言葉を聞いて…

お弟子さんの実家なら、妙な噂を立てられる心配も無いし…

アソビの女連れには、丁度いいのかもしれないと、納得する。



「こちらで御座います」

案内された川床は、涼そのもので…

清冽な瀬音が響き、手が切れそうな流水に、日常の雑事を忘れそうになる。


「素敵…」

思わずウットリしていると…

「どうぞ、お座り下さい」

イッセイの声によく似た、甘い重低音が…

せせらぎを遮るように、涼やかに響いた。
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