-Vermillion-

気まずさから逃げる様に外に出た。

四月とはいえ、

夜はまだ冷え込んでいる。
 

踏切を越えて一本道を進んだ。

その先に山へ繋がる大きな公園がある。

公園の脇を抜けてコンビニに入り、

チョコレートとジャーキーを買って、

来た道を戻った。


ふと、

人気のない公園のベンチに

女性が座っているのが見えた。


「あの人、さっきもいた…」

立ち止まってそのまま見ていると、

彼女の鞄がベンチから落ちた。

拾う様子はない。


「気づいてないのかな…」

私は公園を横切って、

彼女の元へ向かった。

鞄は地面に落ちたままだ。


「あの鞄、落ちましたよ…」

女性は下を向いて座ったまま、

返事がない。

「あの…」



グルルルルルル……



女性の背後から獣の唸り声がして、

辺りの茂みがざわついた。

何かいる――

そう思って、

彼女の背後に目を凝らす。


女性がベンチから崩れ落ちた瞬間、

其れは背後から姿を現した。



――黒い大きな身体。
  尖った耳と鋭い牙。
  そして、真っ赤な眼。



目が合った途端に、

恐怖に駆り立てられて、

私は脇目もふらず一目散に駆け出した。

公園を出て一本道を下り、

踏切を越えた所で振り返った。

何も追って来ない。


口で呼吸をしたから胸が痛い。

私は息を整えてから、

玄関のドアを開けた。

真朱はリビングでゲームをしてたけど、

玄関まで迎えに来てくれた。


「おかえり!早かったな。
 まさか、走ったのか?」

「見、見たの…あの山の、公園で…」

「余山東公園で?何を?」

「その…ものすごく、大きな狗…」

「犬?」


「普通の犬じゃない…
 人一人、食べられちゃう程、
 大きいの…」

「見間違いだろ?
 あの公園広いし暗いし、
 今日は一段と寒いし。」

「若い女性の、後ろにいたの…」

「分かったから、今日はもう休め。
 な?」

「でも…」

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