-Vermillion-

――

「パパもママも、仕事で
 海外に行かなきゃいけないんだ。」

「一緒に行ってもいいのよ?
 現地に転校する事になるけどね。」

「日本人が少なくて、
 寂しい思いをするかもだが、
 いい経験だぞ?」


「俺は、地元で大学に入りたい。
 歴史が好きだし、
 余山大の歴史学科は有名だから。」


「そうか。真朱は高三だもんな。
 じゃあお前は残るとして……」

「朱乃はどうしたいの?
 真朱に構わず、
 自分の意見を言ってごらんなさい。」


「私が行ったら、
 真朱はどうなるの…?」

「真朱は男だし、割としっかりしてる。
 一人暮らしでも大丈夫だろ。」

「お金はちゃんと渡すから、
 心配ないわ。
 朱乃の好きにしていいのよ。」

「私、真朱と一緒がいい…
 真朱と一緒に、此処に残る…」

「そうか。じゃあ真朱、頼んだぞ?」

「任せても大丈夫よね?
 お兄ちゃんだものね。」

「しっかり面倒見ろよ?
 これはこれで、いい経験だ。」

――


「俺がしっかりしないと。
 俺が朱乃を……」


浴室で小さく響いた悲しそうな声に、

ドア越しで思わず息を潜めた。


バスタオルを忘れて入ったから、

渡そうと思ったのだけど……

私は居た堪れなくなって、

部屋に戻ると出かける準備をした。


少し外の空気が吸いたい。


「悪い朱乃!タオル忘れた!
 ってあれ、出かけるのか?」

コートを着ている私を見て、

真朱が不思議そうに聞いた。

「コンビニ、行って来る…
 何か欲しい物、ある…?」

「じゃあ適当に甘い物。
 ちゃんと携帯持って行けよ?
 気を付けてな。」

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