-Vermillion-
真朱は私の頭を軽く撫でると、
優しく私を抱き寄せた。
微かに香水のいい香りがする。
「さぁ、部屋に行こう。
今日は寝付くまで
一緒にいてやるから。」
私は促されるままに部屋へ戻り、
明かりを消してベッドに入った。
真朱はベッドの隣に椅子を寄せて座り、
私の手をそっと握った。
こうしていると心が安らぐ……
真朱の手を握り直して、
静かに目を閉じる。
「おやすみ、朱乃……」
――女の人が目で訴えている。
助けて、助けてと、
此方に手を伸ばしている。
私が差しのべた手が、
彼女に届く事は無かった。
そのまま闇に引きずり込まれて――
-AVRIL 21 (Sam)-
目が覚めた。何だか嫌な夢だ……
額にかいた汗を洗面所で流した後、
制服に着替えてリビングに降りると、
コーヒーを飲んでいた真朱は、
驚いて目を丸くした。
「今日は土曜日だよな。学校なのか?」
「あ…」
入学式から十日程学校を休んだせいで、
曜日の感覚が無くなっている。
「昨日のショックで混乱してるとか?」
「ううん、平気…」
心配そうな真朱を見て、
少し無理をして笑顔を作る。
(十八日に発見された遺体は、
五丁目に住まいの
鳩羽努さん(34)であると判明――)
ピ。
(昨日発見された女性の身元は、
一丁目に住む深川音々さん(68)――)
ピ。
(今日の仔猫ちゃんです。)
「これくらいしか見る物ないな。」
「昨日か今日、被害者は出た…?」
「今やってた、一丁目の人?」
「もっと、若い女性…」
「今の人が最後だと思うけど。」
「そう…」
あの人は無事だったんだ。
大きな狗に咬まれていたけど……
咬まれていた?
彼女はただ倒れただけなのに、
私どうしてそう思ったの?
意識が徐々に遠くなる。
白い世界がさっと消えて、
真っ暗な闇が私を包み込んだ。